亡き父へ伝えたい「お父さん、あの時はありがとう…そしてごめんね」
ライター:Misa

「なぜあの時、ありがとうって言わなかったんだろう」

 

私はずっと後悔しています。

もう会えない父に、感謝を伝えられなかったことを。

 

私と父は、まぁいろいろあって、昔から会話のない親子でした。

友達が親とふざけ合ったり、親に文句を言ったりする様子を見るたびに、私は羨ましい気持ちになっていました。

 

会話がなかっただけあって、私は父に甘えた記憶がありません。

それと同じぐらい、感謝を伝えた記憶もないのです。

 

「お父さんから父親らしいことなんて、してもらったことないわ」

そんな意固地な娘のまま、私は大人になりました。

 

だけど、本当は分かっていたのです。

父は、不器用なりに優しく、そして私を大切に思っていてくれたことを。

それを強く私に分からせてくれたのが、25年前の出来事でした。

 

ある時、2歳だった息子が緊急入院となり、私は病院で寝泊まりすることになりました。

ですが私には4歳の娘もおり、娘の面倒が見られなくなってしまったのです。

そこで娘の面倒を見てくれたのが、私の両親でした。

父と母は、娘の幼稚園の送り迎えなどを、毎日交代でやってくれました。

 

そんなある日、父と娘が乗ったバスの中で、ハプニングが発生してしまいました。

なんと、娘が立ったままおもらしをしてしまったのです。

父と娘は、幼稚園から自宅に帰るところだったのですが、自宅は幼稚園から1時間かかる場所。

本来なら、バスに乗る前にトイレを済ませておくべきだったのです。

でも、孫の世話に不慣れなおじいちゃんは、そんなこと思いつかなかったんですよね。

 

足元からスーッと流れていくのが、孫のおしっこだと気づいた父は、どれほど焦ったでしょう。

父は慌ててポケットからハンカチを引っ張り出し、濡れた床に這いつくばって、床を拭き始めたのです。

両脇にいる方に向かって「すいません、すいません」と頭を下げながら。

 

普段やったことのない孫の送迎や、バスの中でのハプニング。

心身ともに、疲れ果てたに違いありません。

その場にいた女の人も手助けしてくれたそうですが、父はその方の名前も連絡先も聞けなかったほど、パニックだったそうです。

 

私はその話を病院で、息子の小さな手を握りながら、母から聞きました。

普段ろくに話もしない父が、私の娘のために、バスの床に這いつくばってくれた姿が目に浮かびました。

手助けしてくれた女性に名前も連絡先も聞けなくて、父はとても悔やんでいたそうです。

 

「ママがいなくて寂しい思いをしている孫に、さらに辛い経験をさせてしまった…」

 

そんな思いで、父は胸がいっぱいになり余裕がなかったのでしょう。

父がどれだけ大変な思いをしたのかと思うと、私は胸が熱くなりました。

 

それなのに…

 

私はこの日の出来事について、父にお礼の一つも伝えなかったのです。

 

不器用なりに、私を助けるため一生懸命頑張ってくれた父に、どうして「ありがとう」すら言えなかったのか。

 

私の子供たちが大きくなるにつれ、父とはますます疎遠になり、そして4年前に父は亡くなりました。

 

子供たちを成人になるまで育てた、今なら分かります。

お互いに言葉を掛け合うことのない親子でしたが、父はきっと私の何倍も寂しかったでしょう。

どこかで私が壁をぶち破り、もっと父に近づき、話をすればよかったと思います。

 

今頃になってめちゃくちゃ遅すぎるけど、できることなら伝えたいです。

「お父さん、あの時は本当にありがとう…それから、ずっとごめんね」

「だから今、お母さんにはうるさいぐらい電話してるよ。ケンカもするけど、たくさん話して、ありがとうも言うようにしてる」

「だからお父さん、どうか天国から安心して見ていてね」

 

コメント

  1. Tomomi より:

    私と父もMisaさん親子と同じような関係なので、とても共感しました。
    私と父は似たような性格で、考えていることがよく分かり、だからこそ素直になれない…不器用な親子関係だなあとつくづく思います。
    大きかった父の背中がどんどん小さく見える今日この頃、近々実家に行って話をしてこようと思います。
    素敵な文章をありがとうございました!

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      私と同じように、父娘関係で悩んだり後悔したりしている方は少なくないんだなぁ、と思いました。
      ご家庭にもよるかもしれないけど、父親って母親ほど子どもと会話できていなくて、寂しい思いをしているかもしれませんね。
      ぜひご両親とたくさんお話ししてきてくださいね。

  2. Ryoko より:

    読みながら、込み上げて来るものがありました。
    私には、高齢の両親がいます。
    家がだいぶ離れているのでなかなか会いにいけませんが、今のうちにたくさん感謝を伝えたいなと思いました!
    気づきと感動をありがとうございました!

    • Misa より:

      ご両親のことを思いながら読んでくださったのですね。
      ありがとございます。
      私も母とはケンカしながらですが、たとえ短い時間でもちょくちょく連絡するようにしています。
      電話するだけでもいいと思うんです。私も親になって歳を重ねたから分かりますが、たとえ会えなくても、「自分のことを気にしてくれているんだ」と思うだけで親って十分嬉しいですもんね。

  3. moe より:

    家族だからこそ「ありがとう」や「ごめんね」の言葉を言いにくいときがありますよね。
    一度タイミングを逃してしまったら改まって伝えるのは照れくさくて、言わないままになってしまうことも多いな…と反省しました。
    近々実家に顔を出す予定があるので、父や母に感謝の気持ちを伝えたいと思いました!
    きっかけをありがとうございます。

    • Misa より:

      おっしゃる通りですよね。
      私も父に言えなかった分まで、母にはちゃんと言葉で伝えたいと思います。
      こちらこそ、改めてそう思わせていただいてありがとうございました。
      感謝の気持ちを伝えてもらえたら、お父様もお母様も幸せですね。

  4. れいこ より:

    すごく心に沁みました。

    私ももっと父と話せばよかったなという思いがあって。
    だからすごくわかります、Misaさんのおきもち。 バスの出来事のところ、情景が目に浮かびました。そしてうちの長女と父と私の3人で出掛けたある日のことを思い出しました。

    6月は父の亡くなった月。
    お墓参りに行こうと思います。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      れいこさんも、お父様へのさまざまな思いをお持ちだったのですね。
      親子でも、親子だからこそ、伝えにくいことってありますよね。
      お父様のことを思い出しながら読んでくださったとのこと、嬉しく思います。
      ありがとうございました。

  5. Seico より:

    家族たからこそ、言えないこと。
    家族だからこそ、伝えなきゃいけないこと。
    そんなことを思いながら読ませていただきました。
    私は、母も父ももう他界していますが、ちゃんと伝えられていなかったな…と記事を読みながら後悔しました。
    まさに、後悔先に立たずです。
    今からでも遅くないかな?
    お墓参りに行きたくなりました。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      お気持ち、私も同じなのですごく分かります。
      ちゃんと伝えておけばよかった、もっと話しておけばよかったと後悔ばかりです。
      でも、なんか、親の寂しさみたいなものって自分が歳をとってからひしひしと分かるんですよね。
      みんな順番なのかもしれません。
      そして結局親って、子供から感謝されることより、子供が元気で笑っていてくれることが何よりの願いだと思います。
      だから遅いもなにも、Seicoさんが元気でいることを天国のお父様お母様に伝えてあげてくださいね。

  6. こえみの より:

    お父様のバスの中での情景が伝わり、職場での昼休憩でしたが涙ぐんでしまいました。
    私の他界した父親は口数も少なく、とても厳格でしたが、孫はとても可愛がってたのを思い出しました。
    Misaさんの文章は共感するところが多く、とても心に響きましたので投票させてください。
    ありがとうございました。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      他界されたお父様のことを思い出しながら読んでくださったのですね…
      お父様の厳格さをゆるがす程、かわいいお孫さんに会わせてあげられて良かったですよね。
      私の父の状況を想像して、涙してくださりありがとうございました。

  7. Satsuki より:

    とても感動しました。何度読んでもうるっとしてしまいます。
    親になってから理解できることってたくさんありますよね。
    Misaさんの心情がとても伝わってきて、素晴らしい文章だなと感じました。
    ありがとうございました。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      子供が小さい頃は、たとえ交わす言葉が少なくても側にいるので、まだ良かったのかもしれません。
      子供が成人して家を出てしまったら、会話のない親子ってほんとに寂しいものですね。
      親になってから分かること、歳を重ねてまた分かること、ありますよね…
      何度も読んでくださったなんて、ほんとにありがとうございます。

  8. shino より:

    お父様との複雑な関係から、素直になれなかった葛藤に胸が高鳴りました。
    不器用なりに一生懸命力になりたい親心が切なかったです。
    私も父とは言葉数少ないので、会いに行こうと思わせてくれた記事でした。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      Shinoさんも、お父様とは言葉を交わすことが少ないのですね。
      もっと話せたら…と思っても、小さい頃からの関係って親子だからこそ変えにくいのかもしれませんね。
      言葉は交わさなくても、顔が見たいと思ってらっしゃるはずなので、是非会いに行ってあげてくださいね。

  9. 甲本富美 より:

    読ませて頂いてる内に 込み上げるものがありました。本当はとても優しい照れ屋さんなお父様だったのでしょうか…父を知らない私ですが きっと貴女さまの事そして可愛いお孫さんの事を愛していらしたんですね。それがとても伝わりました。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      父は、言ってくださったように、表には出さない優しさをたくさん持った人だったと思います。
      私や私の子供を愛してくれていたんだと、改めて父へ感謝の気持ちが込み上げました。
      ありがとうございました。

  10. mai より:

    何度も読み返しました。
    読めば読むほど、涙がこみあげてきます。
    同時に自分の両親の事も思い出し、さらに涙でした。
    感動をありがとうございます。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      何度も読み返してくださり、ご両親のことも思いだして涙してくださったなんて、それを聞いただけで私も涙がこみあげてきました。
      無償の愛を与え続けることができるのは、やっぱり親から子だけなんじゃないかと思います。
      ありがとうございました。

  11. 中村めぐみ より:

    私も父を大好きだったのに、早くに亡くなってしまったので、もっと話したかったし一緒に過ごしたかった。作品を拝見してお父様への思いが心に残りました。感動させて頂きました。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      大好きだったお父様と早くにお別れしなければならなかったなんて、どれほど心残りで寂しい思いをされたのかと、お察しします…
      改めて、今一緒に過ごせる時間を大切にしなければと思いました。
      ありがとうございました。

  12. Smile より:

    心にしみました。
    親子だからこそ、「ありがとう」や「ごめんね」の言葉を伝えるのは難しいですよね。
    私も高齢の両親がいます。
    Misaさん、気づかせてくれてありがとうございます。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      親子だからこそ「ありがとう」や「ごめんね」を伝えるのは難しいと思う方は多いのですね。そう言ってもらえると私だけじゃないのかも、と思えて少し楽になります。
      でも自分も歳を重ねるごとに、子供から何をしてもらうよりも「ありがとう」と言われるのが一番嬉しいと思うようになりました。
      Smileさんもお父様お母様にたくさん伝えてあげてくださいね。
      ありがとうございました。

  13. 森山 雅子 より:

    感動しました^^親はいつまでもいるような存在で、いつか言えたらありがとうって伝えるかもと思いながら、日々当たり前に過ごしてしまうのですよね。。とても共感できました。きっとその気持ちは伝わってると思います。「お父さんあの時はありがとう..そしてごめんね」このフレーズが心に響きました╰(*´︶`*)╯♡

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      ほんとにおっしゃる通りで、親はいてくれて当たり前になっていました。
      「ありがとう」も「ごめんね」も言わずじまいにならないようにしないとですね…
      私の気持ちが父にきっと伝わっていると言ってくださり、ありがとうございました。

  14. junko より:

    私も父が亡くなって20年近くになります。不思議ですね。今でも悲しみや後悔が押し寄せてきます。文章もとても読みやすく、情景が浮かんでくるようでした。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      お父様が亡くなられて20年近くになられるんですね。
      私もきっと何十年経っても後悔の気持ちは変わらないと思います。
      でも親って子供からどんなに素っ気なくされても、我が子が無事で元気に過ごし、笑っていてくれることを願うんですよね…子供がいくつになっても。子育てを長くしてそれが痛いほどわかりました。
      元気で過ごしましょうね。

  15. rika より:

    私も3年前に亡くなった父に「ありがとう」と伝えられませんでした。

    すごく共感できる所が多く、父の事を思い出しまし。

    素敵な内容でした。

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      rikaさんのお父様のことを思い出しながら、読んでくださったのですね。
      親子なのに、長い年月かけても近づけない関係ってあるんですよね。
      今でも父を思い出すたび、「ごめんね」と言わずにはいられません。
      まだ伝えられる人には「ありがとう」を伝えたいですね。
      ありがとうございました!

  16. アンチョ より:

    私の中で一番心に残るお話でした!身内を亡くしたものには刺さるお話です!とても読みやすくアマだとはおもえないほどでした!

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      昔から日記を書くのは好きだったのですが、人目に触れる文章を書くというのは、難しいと実感しました。
      心に残る…読みやすかった…と言っていただき、とても嬉しいです。
      ありがとうございました!

  17. choco より:

    思わず泣いてしまいました。1番心を動かされたので投票させていただきます!

    • Misa より:

      コメントありがとうございます。
      思わず泣いてしまいました…なんて言っていただけて、私のほうが感動で泣きそうです。
      ありがとうございました!

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