「お母さん！浣腸して！！！」

 

まさか40過ぎて、こんなことをトイレで叫ぶなんて。。。

 

……でも仕方がない。私は今、緊急事態だ。

 

お母さんなら、きっと何とかしてくれる……はず。

 

 

……そう思ったのに。

 

母はドアの向こうからこう叫んだ。

 

 

「えぇ？？？やだぁ！！！」

 

 

ひどい！！

 

助けてくれないなんて……。

 

もう、泣きそう。。。

 

 

＊＊＊

 

 

話は6日前に遡る。

 

私は昔から、お通じで悩んだことはほぼない。

 

ところが。

 

「あれ？…なんか、出ない」

 

珍しく出なかった。

 

 

初めは気にせず出勤。「明日出るでしょ」なんて軽く構えていた。

でも、2日目も3日目も出ない。

 

朝昼晩と食べているのに、何も出ない。

 

 

「え、なんで？？？」

 

夜にはパスタまで食べ、お腹はどんどん膨らむ。

 

…なんか…苦しい……。

 

 

4日目には、空腹なのに食べ物が入っていかなくなった。

 

 

「……このまま、ずっと出なかったらどうしよう。」

 

 

5日目の朝、 私は母に話してみることにした。

 

「ねえ…もう4日くらい出てなくて…」

 

 

「病院に行くと、先生がちょちょっと指で出してくれるよ！」

 

 

……ええ？

 

指で？？

 

 

 

……無理無理無理！！！

 

 

ぜったいいや！！！

 

 

40過ぎても、心はまだ乙女なんですけど！！

 

 

母に話してみたけど、やっぱり無理。

 

病院の選択肢はそっと消した。

 

＊＊＊

 

そうして迎えた6日目の朝。

 

お腹をナイフでグサグサ刺されているような、下腹部の激痛で目が覚めた。

 

 

「いたたたっ！！！」

 

 

まっすぐトイレに駆け込む。

 

痛い。

 

……でも、これは……もしかして！？

ついに来たかも……！

 

 

「——やってやる！！」

 

 

頭の血管が切れそう…

 

すると。

『…ぽこっ』

 

…この感覚は！！

 

 

「きたーーーー！！！」

 

 

……よし、このままいける！！！

 

私は渾身の力を込めた。

 

 

…………が。

 

 

「……、あれっ？」

 

 

それ以上、進まない…！

 

 

お腹の奥が、

 

「まだ終わってないよ〜〜」

 

と、じわじわと訴えてくるよう。

 

 

どうしよう！！！

 

 

そうして私は恥を捨てて母にお願いをした。

 

それなのに…お母さんは「やだ！」としか言ってくれない。

 

ひどすぎる！

 

どうにかして自力で出すしかないのか！

 

ググゥーッ！

 

 

汗をぬぐいながら、何度もトライ。

何度目かで、ようやく“それ”が外へ出た。

 

…でも……。

 

「…これだけ？」

 

思わず、心の中でつぶやくほどの小ささ。

 

まだ、戦いは終わらなかったのだ……。

 

＊＊＊

 

もう、私はクタクタだ。

 

7日目の朝には、

「自然に出す方法」「痛くない　浣腸」…

といった切実なワードばかりがスマホ画面に並んでいた。

そんな中で、一つのワードが目に留まる。

 

 

「シリカ水？？？」

 

 

この水は、腸に届いて水分を集め、排出を助けるらしい。

 

要するに、“出やすくなる”ってこと。

 

 

——これだ！！

 

 

近所のファミマで売っていると知り、私はすぐに走った。

 

飲料コーナーで、棚に並んだシリカ水のボトルを見つける。

 

その中から1本を手に取り、レジへ。

 

手にした瞬間、なんだか“希望の水”を握っているような気がした。

 

バッグにしまったあと、ちらりとすき間から見えたシリカ水に、心の中で「頼んだよ」とつぶやいた。

 

そして昼休み。

 

祈るように、シリカ水を一気に飲み干す。

 

「お願い、効いて……！」

 

 

そうして約20分後。

 

 

 …モゾ……モゾ……

 

 

——きた！！！

 

 

久しぶりの感覚がやってきた。

 

お腹の奥で、何かが静かに動き出している。

 

 

今だ！！！

 

私はトイレへ駆け込み、腰を下ろす。

 

力の入りすぎない姿勢を探ると、お腹の痛みがじわじわと下へ伝わり、何かが押し出されてくるのを感じた。

 

 

「お願い……！！」

 

 

力を込めながら、7日間の出来事が走馬灯のように浮かんだ。

 

 

深く考えなかった1日目…。

 

食べても出ない2日目、3日目…。

 

一生出ないと心配した4日目…。

 

“指で”の言葉に震えた5日目…。

 

負けた6日目…。

 

 

…もうこんな日々を過ごさなくて済むんだ！！！

 

 

祈るような気持ちで力をこめた。

 

そのとき——

 

 

スポンッ！

 

 

先を塞いでいた塊が抜けた感覚。

 

 

そこからは一気に、スルスルとつまりが抜けていく。

 

 

……終わった。

7日間にわたる闘いが、やっと終わったのだ。

 

 

＊＊＊

 

 

トイレを出ると、心なしかスカートのウエストがゆるい。

 

鏡に映った顔も、どこか明るく見える。

 

 

少しだけ、私の中の“詰まり”も、流れた気がした。

 

「幸せって、こういうことかも」

 

職場のデスクに戻ると、バッグのすき間からシリカ水が顔をのぞかせていた。

 

ありがとう、私の救世主。