段ボールの箱を開けた瞬間、胸の奥がぎゅっと熱くなった。
ふわっと実家の懐かしいにおいが広がる。
「こんなにたくさん詰め込んで、お父さんったら!」
父の優しい顔が頭の中に思い浮かぶ。
と同時に、心のどこかで、父とわたしに残された時間がよぎった。
—あと何回、父と会えるのだろう…。
もう84歳になった父のことを思うと、こんな気持ちがよぎってしまう。
—いやだ、いやだ!わたし何考えてるの…。
父からの荷物が届くたび、私は不安な気持ちをかき消すのだ…。
父からの荷物が届くのは、いつも突然だ。
ピンポーンとインターフォンが鳴り、
「お荷物でーす」
と、宅配便のおじさんが玄関先に段ボールを運んでくれる。
いつ荷物が届くよとか、送ったよなどの連絡は、いつもない。
「重いですよ。2箱あるので、玄関の中に置きますね」
と、宅配便のおじさんが言う。
「あ、お願いします。2箱も!」
父らしくきちんと紐がかけられ、隅々までガムテープで補強されている段ボール。
玄関に置かれると、父の好きなお酒の銘柄が書かれていることに気づく。
「まだお酒、毎日飲んでるな」
父の元気な証拠をいち早く見つけて、わたしはにやっと笑う。
ぎっしり中身が詰まった段ボールは、いつも重い。
「こんなに重い荷物運んで、腰大丈夫だったかな?」
父がよくぎっくり腰になっていたことを思い出して、少し心配になる。
やっと、リビングへ運んだ段ボール。
几帳面に梱包されたふたを開けるのは、いつも少し面倒くさい。
「ほんと几帳面だよね」
そうして、カッターで紐とガムテープを切って開ける。
ふわっと立ち上る、実家のにおい。
中から出てくるのは、わたしの好物ばかりだ。
地元のお菓子、おせんべい、ラーメン、ドレッシング、お漬物から調味料まで__
隙間なくぎっしり詰められていて、なかなか底が見えない。
「わー、懐かしいな。」
「子どもの頃、よく食べてたな。」
「これ、実家の味だよねぇ」
そんなことをつぶやきながら、ひとつひとつ段ボールから取り出していく。
「・・・お父さんが、これを詰めてくれたんだよな・・・」
私の好物をひとつひとつ詰める父を想像すると、それだけで胸がいっぱいになる。
—お父さんに、早くお礼を言わなくちゃ!―
―お父さんに声を聞かせたい!―
―お父さんの声が聞きたい!―
そんな思いがわいてきて、自然とスマホに手が伸びる。
「お父さん」の文字をスマホから探し、発信ボタンを押す。
——-あと何回電話で話せるんだろう?
——-あと何回会えるんだろう?
——-サプライズ便はこれが最後?
・・呼び出し音を聞いている間、なぜか涙で目がかすんで、胸が詰まる。
すると、
「もしもし」
と、父が電話に出た。
「もしもし、お父さん、荷物届いたよ!たくさんありがとう!」
なるべく明るく、明るく・・・。
「おう、届いたか?ちゃんと入ってたか?」
いつもと変わらない元気でやさしい声。
「たくさんあたしの好物が入ってたよ。美味しそう!」
感謝の気持ちを直接会って伝えたくなる。
「そうか、家にあるものばっかりだけどな。たくさん食べなさい。また送ってあげるよ」
と、照れながら父が言った。
——家にあるものばっかりだけど——
と父は言うけれど、わたしにとっては、どれも”父がわたしのために選んでくれた宝物”だ。
80過ぎの父にとっては、外出も楽じゃないはず。
なのに、わざわざわたしの好きなものを買いに行ってくれて。
ひとつずつ段ボールに詰めて、紐をかけて、ガムテープを貼ってくれて。
ひとりで、重い荷物を抱えて、郵便局まで行ってくれて。
全部知っているよ。
なのに、当たり前のように、軽く言ってのける。
「また送るよ」なんて。
その声を聞いているだけで、泣きそうになる。
そんな思いに気づかれないように、明るく、冗談めかして言う。
「またよろしくね~!」
父は、あははっと笑った。
電話を切る。
父の声が、じんわりと沁みていく。
・・・今日も笑ってた。お父さん。
よかった。お父さんはまだ元気だ。
さっきまでの不安が薄れていく。
かわりに、ポカポカと温かい気持ちが胸に広がっていった。
いつも突然届く父からの荷物には、父からの愛情がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
わたしをいつまでも子ども扱いして、甘やかしてくれるのは、父だけだ。
父との残された時間はあとどのくらいだろう…。
だけど、別れはまだまだ先でいい。
一緒に旅行に行ったり、美味しいものを食べたりしよう。
「お父さんからの贈り物がわたしの元気の素になっているよ」
大好きなお酒を持って伝えに行くから、待っててね。お父さん!
コメント
素敵なお父様ですね!当たり前の実家からの贈り物は当たり前じゃないんですよね。
どんなに元気でもどんなに長生きしてもお別れは来ちゃいますよね。想像すると寂しくなりますよね…。私も実家の両親を大切にしたいと思いました。
素敵なお父様ですね。読んでいて、私ももうちょっと実家に顔出そうかなって思いました。
嫁いでから同居なので、なかなか両親が訪れる機会もなく。早速、日曜に東京土産を持って行きたいと思います。
佐藤有理さん、コメントありがとうございます。
お父さん、きっと喜ばれると思います。わたしは8月に会いに行く予定です
読んでいただき、ありがとうございました。
読んでてうるっときてしまいました。親子の温かさの伝わるエッセイでした。実父とこういう関係を築けたらなあ、と思いながら思うようにならず今まできました。
会えなくなる日が突然くるかもしれない…そう思って接してみようと思います。大事なことに気付かせてくれてありがとうございます。
親子・家族が仲良っていいですよね。
中屋敷康子さん、コメントいただき、ありがとうございます。
私も父とずっといい関係かといったら、そうでもなくて、最近親のありがたみを実感してます。
読んでいただき、ありがとうございました。
私もお父さんっ子なので、同じように思うことがあります。いつまで続くんだろう…って考えるとツラくなりますよね。いくつになっても、子は子なんでしょうね。
お父様の優しさ、たくさん受け取ってください。
yumiさん、コメントありがとうございます。年々父の優しさにふれて、親のありがたさを感じています。
読んでいただき、ありがとうございました。
素敵なタイトルに素敵な内容…とても心が温かく優しい気持ちになりました。
私は、両親の介護の為に再び実家に暮らす事になったのですが、高齢の両親と一緒に暮らす事は、想像以上にストレスが溜まり、最近では同居なんかしなきゃ良かった!って思うこともしばしば…。そんな時にこの作品に出会い、忘れてた過去を思い出す事が出来ました。主人の転勤で、知り合いもいない土地に住む事なった私に、田舎の両親からよく荷物が届きました。中身は、地元の特産品。まさしくyukiさんの書かれていた思いを私も同じように感じていました。それなのに、同居したら過去の思いはスッカリ忘れてしまってました。けれど、再び両親へ感謝の気持ちが芽生え、又優しい気持ちで接することができそうです。忘れてた過去を思い出させてくれて、有り難うございました
私も娘がこの春から1人暮らしを始めたばかりで、yukiさんの気持ちはもちろんなのですが、お父様の気持ちもすごくわかって涙が出ました。文章の中に、ご家族それぞれの愛、大事な時間、思い出などがたくさんたくさんつまっていますね。お父様と、これからもすてきな時間を過ごしてほしいです。
Yukiさんの優しさ気持ちよくわかります。
私の父は昨年亡くなりましたが、まだまだ色々としてあげたい事、旅行の好きだった父をもっと温泉に連れて行ってあげたかったなどといっぱい頭に浮かんできます、
今はもう叶えられないですが、
だから是非お父さんと会う時間を今より少しでいいので増やしていってほしいです。
nonさん、コメントありがとうございます。わたしにも娘がいるので、娘が家を離れると今度はわたしが父の立場になるのかなと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。
心温まるお話で、読んでいてほんわかしました。
素敵なお父様の人柄と、お父様が大好きな様子とが伝わってきました。
まだまだ元気でいてもらわないとですね!
Yokkoさん、コメントありがとうございます。はい!まだまだ元気でいてほしいです。
読んでいただき、ありがとうございました。
亡くなった父を想いました。
優しくしてあげたら良かった。いつも思います。
お父様との温かい日常をありがとうございました。
ほのかあかりさん、コメントありがとうございます。これからも親孝行頑張ります‼︎
読んでいただき、ありがとうございまさした。
ダンボールを開けた瞬間の実家の懐かしい香り、嗅いだことないのに読み手の私に伝わってきた気がしました。あと何回…は、きっとお父様も同じように想いながら、荷物を詰められてるんだろうな。心がホッコリする素敵な愛情のお裾分けを、ありがとうございました。
chakoさん、コメントありがとうございます。そうですね、父も同じ想いなのかもしれませんね。
読んでいただき、ありがとうございました。
大学生のとき、実家から荷物が送られてくるたびに、母の愛情を感じて泣いていたのを思い出しました。
当時の記憶や感情がよみがえってきて、じわ〜っとあたたかい気持ちで心が満たされています。
moeさん、コメントありがとうございます。実家からの荷物って特別ですよね。私も娘にしてあげたらと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。
段ボールに積めておられる、お父様の様子が思いうかび(会ったことないのに)何故だか、泣きそうになりました。
何か、せつない気持ちになりました。
ありがとうございます。
maiさん、コメントありがとうございます。父にはまだまだ元気でいてほしいと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。
私も亡き父を思い出し涙が出ました。
それと転勤で遠くに居る息子のことも。
そろそろ好きな物集めて送っちゃいます!!
感動ありがとうございました。
お父様の無償の愛が伝わってきます。
お父様がいろいろ詰めながら、娘を案じる気持ちがとても伝わります。読み終えてからも、あたたかな気持ちが続きますね。
aakoさん、コメントありがとうございます。ほんとに無償の愛ですよね。ありがたいです。
読んでいただき、ありがとうございました。
私の父も几帳面で、一度荷物を送ってもらった時、キレイじゃないけど頑張って書いた宛名、きっちり留められたガムテープに、少し笑ったのを思い出しました。
「梱包だけでも性格でるんやなぁー」と思いました。
日常の素敵なお話をありがとうございます^_^
kazuhaさん、コメントありがとうございます。父からの荷物ってなんか温かいですよね。読んでいただき、ありがとうございました。
kazuhaさん、コメントありがとうございます。父からの荷物ってほんとに温かいですよね。
読んでいただき、ありがとうございました。
素敵なお父様ですね。
いくつになってもお父様はyukiさんの事を思っているのですね。
心が温かくなりました。
sachikaさん、コメントありがとうございます。わたしも父に負けないくらい、父を大事に思っていきたいと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。
私も父が大好きなので思わず読み入ってしまいました。私はそう遠くないところに住んでいるのですが、やはり父がいつまで元気でいてくれるか考えると泣けてきます。
今からでもできるだけ親孝行したいと思いました。
ちちがなくなってもうq
ゆみえさん、コメントありがとうございます。
わたしの父が大好きで、ずっと元気でいてほしいと願っています。
読んでいただき、ありがとうございました。
私の両親も、いつも段ボールにいっぱいいろんなものを詰めて送ってくれます。
とても共感した文章でした。
日常のなんてことない一コマなのになぜかジーンとしてしまい、私も父に連絡をとりたくなりました!
さつきさん、コメントありがとうございます。
両親っていつまでも温かな存在ですよね。読んでいただき、ありがとうございました。