静かに、まっすぐに
中東弥生
ライター
携帯のLINEが突然鳴った。
画面には、しばらく開くこともなかった高校時代の四人グループの名前が光っていた。
「既にお聞きかもしれませんが、香織ちゃんが昨日亡くなったらしいです。」その文字を読んだ瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
沈黙していたグループLINEが、次々と通知音を鳴らしはじめる。
最後に届いたのは、息子さんからのメッセージだった。
『こんにちは。息子の和也と申します。昨日、母が天国へ旅立ちました。”元気な香織のイメージを持っていてほしい”と母の希望で、家族葬を行いました。』
読み終えた頃には、手が震えていた。
香織は、高校の頃からいつも中心にいた。
明るく、賢く、体育係でも文化祭でも誰より先に動き、周りをまとめた。
クラスの“お母さん役”のような存在だった。
卒業後、私たちが都会へ散っていく中、
香織だけは大学卒業と同時に地元へ戻った。
そして地元でお見合い結婚し、働き、家族を支えた。
私が里帰り出産したときも、退院後すぐ実家へ来てくれた。
夏には花火大会で近況を報告し合った。
会えば一瞬で、高校時代に戻れた。
最後に話したのは、彼女の車で行った海沿いの大きな岩の上に建つ喫茶店。
窓の向こうには、潮の満ち引きで姿を変える赤い鳥居が見えた。
海に浮かび、岩に立ち、ただそこに在る。美しい景色だった。
紅茶を飲みながら、香織は静かに語り始めた。
薬剤師の夫が急性白血病になり大変だった事や、「退院できます」と告げられた瞬間、夫婦で泣き崩れたこと。
忙しい総合病院を辞めて、その退職金で彼女にミニクーパーを買ってくれ、その車で大学受験の娘を送り届けた話を聞かせてくれた。
けれど、私たちは知らなかった。
その後、香織が乳がんになっていたことを。
治療も手術も痛みも、誰にも言わず抱えていた。
知らせで知ったとき、胸が裂けるほど悔しかった。
でもどこかで思う。
あの人らしい、と。
弱さを見せず、泣き言も言わず、最後まで自分の美意識のまま生きた人だった。
人生は思っているより短い。
終わりは、前触れなく来る。
ならば。
怖いからやめる。
もう年だから。
そんな言い訳は置いていく。
震えながらでも進む。
迷いながらでも選ぶ。
たった一度の人生なら、望む方へ歩くしかない。
その年の年末、喪中はがきが届いた。
「もう賀状等を送らないでください」と小さく添えられていた。
信じられなくて、何度も読み返し、裏返して確かめた。
ああ、本当にもういないのだと。
それでも、私は忘れない。
香織は強い人だったことを。
海の赤い鳥居のように、静かに、まっすぐに。
コメント
中東さんの書かれるエッセイは、一言一言に重みが感じられます。
今回は亡くなられたご友人のお話…ここに書ききれない想いもたくさんあったかと思います。
最後の結びの言葉は、香織さんが本当に強い方だったことがわかる強いメッセージとして受け取ることができました。
全然お会いしたこともない香織さんの姿が想像でき、この短い文から香織さんの強さや美しさが伝わってきました。お友達を亡くされたお辛い経験ですが、それを自分の中で前向きに変換される中東さんもまた、強く静かに、まっすぐな方なんだろうなぁと感じました。素敵なエッセイありがとうございました!
中東さん
お友達の死は何ともいい表せない悲しみだったと思います。私も友達の死を思い出しました。
お友達の死がただ悲しい、淋しいだけの気持ちではなく、残された人に大切な思いを伝えてくれたのですね。
私も最近まで、逃げてばっかり、何かに挑戦するような人間ではなかった。だけど自分が死を迎えたとき、もっとやっておけば良かったなと、あれこれ後悔するなと思ったんです。香織さんの死を受け止めるのは辛いけど、後悔のない人生を生き抜かれたんでしょうね。素敵なエッセイをありがとうございました。
中東さんと大切なお友達から、当たり前の日々の大切さと、自分らしく真っ直ぐに生きる力を教えていただきました。
心に残るエッセイをありがとうございました。
怖いからやめる。
もう年だから。
そんな言い訳置いていく。
震えながらでも進む。
迷いながら選ぶ。
たった一度の人生なら、望む方へ歩くしかない。
静かに心にしみわたりました。
素敵な文章ありがとうございました。
私も同じ年代、まるで自分のことのように感じました。
たった一度の人生、ゲームのようにリセットはできないのだから、自分の信じた道を歩いていきましょう。
中東さんの作品は、人生についていつも考えさせられます。
私も、「好きなら言い訳なんかしないでやっていこう」って改めて思いました。
ありがとうございます。
わたしも友だちのことを思い出して、胸が熱くなりました。
みんなそれぞれの人生を生きていてるんですね。
わたしも静かにまっすぐ生きてみたいと感じました。
静かに、まっすぐにと言うタイトル通りの、まっすぐな語り口に中東さんのお人柄を感じました。文章全体に静かな迫力が満ちていて、圧倒されました。
改めて、私も、毎日を悔いのないように生きていこうと思います。読ませていただきありがとうございました。
コメントありがとうございます。
いつもれいこさんの作品は楽しみにしてます。
ただただ悲しい友達の死でしたが、ノミネートされたことで、私にとっては「輝いてしまっておける」記憶になり、安堵しています。
自分にも中学から今も仲良くしている友人が何人かいます。もしも彼女(たち)が今消えてしまったら、、自分も含め明日があるなんて確実には言い切れない。だからこそ今を生きよう、そう思えました。素敵なご友人ですね。
コメントありがとうございます。
そうですね、私は、結構歳いってるんですけど、友達を病気で無くすのは初めてでした。香織は堅実で、賢くてたくましい上に、友達も沢山いる元気印だったので、もし家族葬でなければ、皆んな行きたかったと思います。私も行って、大泣きしたかった。これからは、もっとそういうのも増えると思うとゾッとします。
ご友人の死というお辛い経験。
そして、そのことを通してのご自身の決意。中東さんの、静かに まっすぐな凛としたお姿が見えるような気がしました。
命の終わりまでにどう生きるべきか、改めて考える機会を頂けました。
ありがとうございました。
ステキなコメントありがとうございます。
そうですね、永遠の課題かもしれませんね。
静かに、まっすぐに、心に響くエッセイでした。ご友人の香織さんのお人柄と、中東さんの静かでまっすぐな一文一文が、リンクされていて、美しい作品でした✨ありがとうございました。
ステキなコメントありがとうございます。
終始硬い文章で、押し付けがましかったかなとさえ思いましたが、実は、「静かに、まっすぐに」とリンクしていたという事にします。
友人を亡くされた辛さが伝わりました。
読みながら、やはり乳がんで亡くなった同級生を思い出しました。
「人生は思っているより短い」というのは、分かっているけど普段は忘れてしまう。
「長生きするでー」と常日頃思っている私には、深く考えさせられました。
「明日死ぬように生きよ。永遠に生きるように学べ」というガンジーの言葉を中東さんに贈ります。
ありがとうございます。「明日死ぬように生きよ。永遠に生きるように学べ。」同じ気持ちです。
もはやガンジーと並んでしまったのかしら?大変大変。
今、自分がこの世から消えてしまったら、あの人らしかったと言われるような生き方をしているのか。
考えさせられました。
「震えながらでも進む。
迷いながらでも選ぶ。」
胸に刺さるような文章でした。
心に響く文章ってこういうことなんだなと思いました。
ありがとうございます。
そうですね。私も鈍い人間なので、今迄ぼんやり流されて生きてきています。そして、冷ゃっとして気付かされても、臆病なのでいちいち大変なのは確かです。でも、まぁ、死ぬほどでは無いと気づきました。
終始硬い文章になってしまったと、反省しています。コメントありがとうございます。
ステキなコメントをありがとうございます。
わかっている事なのですか、香織の事がなかったら、本心では
分かって無かったかもしれません。
今は、お尻に火がついた気持ちでいます。
淡々とした語り口の中に、弥生さんの切なさや無念が滲んでいて、私もやり残したことはなんだろう、と思わず考えてしまうエッセイでした。
ご友人を亡くされた経験から、「たった一度の人生ならば、望む方に歩くしかない」と強く決意した弥生さんの心が伝わってきます。
生きているって当たり前じゃないんですね。日々のことに感謝しながら歩んでいこうと思いました。
ステキなコメントありがとうございます。硬くて一直線な作品ですが、理解して頂き嬉しいです。なかなか人生は、思うようにはなりませんか、努力したいと思います。
シンプルに心に沁みました。
そうなんですよね、人生って案外短い。
本当にいつ何時何が起こるか、1秒後でさえも分からない。
だからこそ後悔しないように一瞬一瞬を悔いなく生きたい、と思っています。
でもこれがなかなか難しいです。
人生後半戦に突入して、考えさせられることばかりです。
でも諦めずに進もうと改めて思わせていただきました!
強くまっすぐに生きた大切なご友人のこと、教えてくださりありがとうございました。
とてもステキな感想を頂きありがとうございます。
なかなか、私に読み手を引き込む力はまだありませんが、香織からのメッセージは届けれたようで、嬉しいです。
“人生は思っているより短い。終わりは前触れなく来る。”の言葉が強く刺さりますし、たった一度の人生望む方へ進むしかない。という力強いメッセージが心に響きました。30代の親友が癌になった時は、年齢はマジで関係ない!人生いつ何があるか本当にわからない!やりたいこと後回しにしてる場合じゃない!って痛感しました。素敵なエッセイありがとうございます。
ステキなコメントありがとうございます。
自分の中で、終始一貫してしまった感があり反省しています。同じ様な経験をされているので理解してもらえて嬉しいです。
最後まで自分らしさを貫かれたたご友人。
そのお人柄が、中東さんのエッセイから伝わってきました!
今回エッセイとして残されたこと、ご友人もきっと喜んでいるだろうなと感じました
ご友人との素敵なストーリーありがとうございました
IWriteグランプリ、楽しみましょうね♡
「もっと頑張れ」という香織のメッセージを受け取ったと思っています。それをエッセイにして伝えた事に、きっと喜んでくれてると私も思います。
ステキなコメントを、ありがとうございます。
ご友人を亡くされ、お辛かったと思います。
本当に素敵なご友人だったのですね。
喪中ハガキを何度も確認されている様子が目に浮かび、私も泣きそうになりました。
でもこの事をきっかけに、自分自身と対話され大切なことに気付かれた事、本当に素晴らしいと感じました。
私も、あらためて自分のこれからを考える良い機会となりました。
ありがとうございます
ステキなコメントありがとうございます。分かっている様で、香織の事が無かったら、本心で分かっていなかったかもしれません。今は。お尻に火がついた気持ちです。